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富山家庭裁判所 昭和32年(家)172号 審判 1957年4月17日

申立人 田中菊治(仮名)

主文

○○市役所備付けの

本籍富山県○○市○○○○○番地筆頭者田中菊治の戸籍中、

一、四女タカ子の戸主との続柄欄及び父母との続柄欄に

「四女」とあるを「七男」に、

二、五女カズ代の戸主との続柄欄及び父母との続柄欄に

「五女」とあるを「四女」に

各訂正することを許可する。

(家事審判官 中田忠雄)

参照 (申立の実情)

事件本人は申立人の四女として出生したものであるが、最近男性仮性半陰陽の診断により手術の結果、昭和三二年二月五日医学的にも完全たる男性となつたものであります。

よつて之に即応せしめるため、その戸籍事項の身分欄に、申立人の四女とあるを七男と変更訂正することの許可審判を求め度く、本申立に及んだ次第であります。

診断書

住所 富山県○○市○○

田中タカ子(仮名)

十九歳

一 病名 男性仮性半陰陽

附記 右の者医学的に男性なり

右之通診断候也

○○大学医学部附属病院泌尿器科

昭和三十二年○月○○日 主任医師 ○○

(家庭裁判所調査官○○○○の調査報告書)

申立人田中タカ子を診断、手術を施した主任医師○○氏の陳述に基き明らかにされた手術の経過は次の通りである。

<1> 昭和三一・○・○○ 第一回診断

此の際医師が、申立人の性転換希望を聞き、診断の結果、或る程度の可能性を認めたので、後日手術を施行することを約した。当日の所見要旨は次の通りである。

陰核に相当する部分が、長さ約二センチメートル程度尖出している。太さは径一センチメートル弱程度。但し尿道がない。膣に相当する部分に尿道が開口し、膣は全く欠如して居る。(尿道下裂)

子宮其他内陰部は外診によつては察知し得ないから、内生殖器の有無等は判定困難にあるが、小陰唇が欠如し大陰唇部の内側に睾丸に相当するものが発育しつつあり、外部から押えてもグリグリが判然として居る事、その他第二次性特徴として声が全く男性的である事、胸部乳房のフクラミが全然見られない事等より推断して、患者は将来女性として発育するよりも、男性として発育する可能性が多いと判定されたのである。

<2> 昭和三一・○・○○~○・○ 入院

此の入院時には陰核尖起の周辺の皮肉を薄く剥脱した。将来陰茎として成長せしめる為である。此の部分は勃起が可能で、性感も有るので、尿道を作れば陰茎として一応役に立ち得る見込が有つたからである。

<3> 昭和三一・○○・○○~○○・○○ 第二回入院

此の入院時には、従来の尿道を閉塞し陰茎に尿道を作つた。極めて手術として困難なものであり(殊に閉塞の部門が)放尿時に、微弱では有るが、旧道を経る傾向を防ぎ切れなかつた。

<4> 将来の治療方針と性転換に対する医師意見

従来同様男性ホルモンの投用を継続し、男性としての特性が除々に育成されるのを待つ外はない。手術面では尿道閉塞が完全に行われる様今後の経過を注目しなければならないが、一応必要な手術は了したと云い得る。

医師としては、患者の希望に基き、性転換の可能性を認めたので、手術、治療に当つた訳であるが、膣造形の方が陰茎造形に比し、遙かに困難な手術であることは明らかである。

手術の結果、将来完全に男性としての機能を発揮し得る(換言すれば姙娠せしめ得る)程度に成るか否かは断言出来ない。

但し、現在では性衝勤に伴つて陰茎が勃起し、摩擦と共に薄い粘液状の分泌を見るに至つたことは、或る程度男性としての特徴を具えて来て居ると見るべきであろう。

(菊治、タカ子調査)

<1> 申立人の家族状況は次の通りである。

(略)

申立人菊治は、六男五女一一人の子福者であり、現在も尚カクシャクたるものがある。

タカ子は、○年○○神宮○○グランドに於て開催された○○○陸上競技会に○○県代表の一人として体操種目に出場したが、実兄の内二人もトラック(四〇〇メートル、八〇〇メートル)の○○県代表となつたものがある。尚家族(タカ子の兄姉達)は何れも身体強健で、子を成して居り、申立人以外、格別異常な身体を有しているものはない由である。

<2> タカ子の成育状態は概略次の通りである。

幼児(四才)の折、両親はタカ子の身体(性器)に異常を認めたので、○○市内の医師に診療を乞うたが、性特徴は成長するに従つて発育するから格別心配しなくても良い旨意見を聞かされた。

声が不特定(女らしさがなく、かと云つて男性的とも云えない)であり、年頃になつても乳房のフクラミが見られなかつた。月経は一回も経験がない。陰毛は一五才頃より生じた。男性に対して一向関心が起らず、逆に女性に対して性欲を覚える様になつた

一七才時に自涜を自然に経験した。女性に対する性交欲からである。射精等の現象はなく、粘液様の分泌があつたに過ぎない。

その後数回衝動に駆られて自涜を行つたことがある。

その頃より両股の付け根に腫瘤様の痛味を覚えた。此の部分が、後日○○大学で診断を受けた際、睾丸として成長しつつあつた部分なのである。

昭和三二・二・○○、○○町○○○○KKに(○○○○○製造工場)就職、工員として勤務し、日給一七〇円を受け現在に到つて居る。

(調査官意見)

診断手術に当つた医師の言を徴しても明らかな通り、タカ子は今後少く共、身体医学上からは男性として認めなければならない程度に、性転換を遂げてしまつて居るのである。

少く共男性として認む可き最小必要限度のものを具備したと云わざるを得ない。

それ以上の要件は、彼女(或は彼)自らが選んだ道であるから、如何に苦しみや困難を伴うものであつても忍従しなければならないことは致し方のないところである。

国家は(裁判所は)今となつては、彼女の(或いは彼の)希望の達成に援助こそ与えても、之を措止すべき一片の理由をも有しないのではなかろうか。此の場合、医師の判断や施術こそ、神の業として敬虔に肯定せねばならないものと考えるものである。上記の理由を以て、本件は許可相当と思料せられる。以上

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